松下幸之助花の万博記念賞

「自然と人間との共生」という花の万博の基本理念の実現に貢献する、すぐれた学術研究や実践活動を顕彰

講演会

第10回(2002年)

記念賞

石 弘之環境学者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

人々の暮らしと自然環境-森林の大切さ-

講演要旨

人間が自然を滅ぼしたため文明が滅びた例をお話する。「宇宙船地球号」という言い方がある。これは地球という惑星が閉ざされた環境にあり、循環をしていないと継続していかないということを言う。経済には二通りあり、一つは「カウボーイ経済」と言い、収奪を繰り返す経済で結果的に資源が枯渇し、破壊する。もう一つは、「宇宙船経済」と言い、閉じられた空間の中で資源の再利用を行い、破滅を防ぐ。

資源には二種類あり、石油、鉄などの「非再生資源」と土壌、水、木材などの「再生可能資材」である。現在、非再生資源は枯渇の心配があり、再生可能資源もなくなりかけている。アジアやアフリカ諸国では近年、爆発的に経済発展を遂げつつあり、その結果、森林の伐採が進み、周辺地域で洪水などの自然災害が頻発している。また工業排水による水の汚染、かんがい用水の減少なども起こっている。

自然を失うことで消滅した集団の例としてイースター島の例がある。紀元4~6世紀にポリネシア人がイースター島に流れ着いた後、文化の創造として島全体に約千体のモアイ像を作った。しかし、巨大な石像の運搬に膨大な量の木を使ったため、肥沃な土壌が流れ出してサツマイモなどの作物が育たなくなったり、丸木舟が作れず、漁もできなくなった。その結果、島内で食料収奪のための戦争が起こり、全ての石像は倒され、それまで最大1万人に増えた人口は17世紀には7百人程に減少した。イースター島の運命は地球の運命ではないか。

これとは対照的にスイスの自然はほとんどが人工である。スイスでは16世紀に鉄鋼業のために木を切り倒し、山を丸坊主にしたため、19世紀に4回も大規模な山崩れが起こり、全土が崩れてしまうような事態となった。そのため憲法を作り、森林を取り戻すために猛然と研究し、努力を行った結果、現在、森林面積は30%にまで戻った。ウィーンの森は第2次大戦までは巨木が生い茂っていたが、大戦中、森の木を切って冬の寒さをしのいだため、森は丸坊主になってしまった。しかし戦後皆が木を植えて森を取り戻した。人間は自然を戻すことができる。

今後人間には次の3つの倫理観が大切であると思う。
1.世代間倫理観:後から来る人のために考える。
2.地理的倫理観:遠く離れた貧しい国のことを考える。
3.人間と他の動物の価値観に対する倫理観
上記の観点から企業活動のあるべき姿、学校教育へのかかわりなどを考え、破滅が進む前に何とかしたいものである。