松下幸之助花の万博記念賞

「自然と人間との共生」という花の万博の基本理念の実現に貢献する、すぐれた学術研究や実践活動を顕彰

講演会

第11回(2003年)

記念賞

吉川 宗男ハワイ州立大学 名誉教

天に星、地に花、人に愛-自然と共生する生き方-

講演要旨

ハワイでは「こんにちは」のことを「アロハ」と言う。
「アロ」の語源は大宇宙を意味し、「ハ」は宇宙の創造主の吐く息であり、全てを創造し結びつけるエネルギーを表わす。ポリネシアの世界観では「ハ」のエネルギーは「マナ」と言って8の字を横にした形(∞) で表わし、"Lazy Eight"(怠け者の8)というあだ名も付いている。
「∞」の形をした「メビウスの輪」とは表裏一体であり、同時に分離した存在のことである。具体的には微生物から人間まで、目に見えないが共に生かし合う関係(共生の原理)のことである。全てが循環するという自然原理(循環の原理)は21世紀の環境哲学であり、それはメビウスのメガネをかけて物を見ることであり、天に星、地に花、人と宇宙、自然、愛を結び付ける考え方である。

昭和32年、18歳の時に父の反対を押し切って横浜港から貨物船で米国へ向かった。 私は「失敗を恐れないで挑戦する」"American Mind"に共鳴して旅立ちを決心した。

米国での体験を通じて私は下記のような人生観を持つに至った。
「ア」、「アハ」、「アハハ」という3段階の"Creative Process"である。
「ア」は感動や失望と美(感性)の発見
「アハ」はルール(科学的な気付き)の発見
「アハハ」は笑いと幸せの創造
のことである。上記のような行動と創造が教育の原点である。

私は米国留学を終えるとハワイへ移った。
ホノルルを見下ろす丘で満月に照らされた何百もの月下美人の美しさに感動したからである。
ある年カウアイ島にハリケーンが到来し、島が全滅したため観光客が来なくなってしまった。そこでハワイ大学の学長からどうしたら観光客を取り戻すことができるかと相談された際に私は島を環境保護地としてアピールすることを提案した。そのための準備として環境テクノロジーを学ぶために私は世界を回った。そして世界各地で私が発見したのは病んだ地球の現状であった。

最近私は癌細胞に興味を持った。それは人間の欲望のように自分のテリトリーを拡大し続け最後に母体と共に死を迎える。資源開発や科学文明の発達は地球の死を意味することかもしれない。
しかし危機をチャンスとして捉えることにより、エコロジー(生態学)が生まれた。全ては繋がっているのである。 それが「メビウスの輪」の意味するところである。

呼吸の歴史は4億年前からの大ロマンである。
4億年前、ある種の魚はエラの後ろに原始肺を持って、陸に上がった。
その結果、肺呼吸する陸上生物が誕生し、以降呼吸が途切れることなく続いている。命は時空の流れの産物であり、人間は自然の一部である。

マクロの世界(宇宙)もミクロの世界(原子)も99.99%は空間が占める。人の1呼吸で3x10の19乗個の原子が入れ替わる。これらの原子には過去からの全ての物質を構成した原子の一部が含まれる。私の原子は花の一部となり、鳥の一部となり、魚の一部となる。全てが繋がっているという全体思考、生命感覚、責任感覚が環境倫理であり、それは生命への畏敬の念である。
われわれは生命への畏敬の念を根本にして、新しい感性と意識で新しい常識を持った人間としてこれからの社会を作って行かねばならない。