日本人留学助成〈松下幸之助国際スカラシップ〉

諸外国との交流の促進、諸外国の発展と真の国際相互理解に
寄与する研究を志す海外留学を助成しています。

先輩の声

未来への種(2011年12月投稿)

独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所
諫早 直人

このたび、財団のHPに「先輩の声」を載せたいというお話をいただきましたので、今まさに留学中の皆さん、これから留学しようと準備している皆さんに、わたしが留学で得たものについてすこしお話しさせていただきます。

わたしは2005年、まだ松下幸之助記念財団が松下国際財団で、国際スカラシップがアジアスカラシップであった頃に運良く奨学生に採用され、2006~2008年までの2年間、韓国の慶北大学校考古人類学科というところに留学させていただきました。留学期間中は実に多くの方々の助けを受けながら、いま思えば本当に自由に研究をおこなわせていただきました。
留学後わたしは京都大学大学院文学研究科に復学し、2010年春には博士論文を提出しました。なんとか博士論文を書きあげることができたのは、留学期間中に韓国でたくさんの資料を調査できたことに尽きると思います。2010年の秋にはスカラシップの元奨学生を執筆者とする風響社の≪アジアを学ぼう≫シリーズに執筆する機会をいただき、『海を渡った騎馬文化』を刊行することができました。また現在、とある出版助成を受け、博士論文を出版すべく準備を進めていますが、この出版助成に通ったのはブックレットの存在が大きかったのではと思っています。

わたしは現在、独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所というところで研究員をしています。この研究所はもともと古都奈良の文化財を総合的に調査研究するために設立されましたが、現在は文化財に関する日本のナショナルセンターとして海外の諸機関との学術交流にも力を入れています。その中でわたしは、飛鳥・藤原京や平城京などの発掘調査・研究にくわえて、本研究所と韓国の国立文化財研究所との共同研究事業に関する実務を担当しています。このような仕事につくことができたのも、韓国での留学経験があってのことであることは言うまでもありません。国の機関同士の交渉には難しさを感じる時もありますが、留学中に覚えた韓国語や韓国で培った人脈を活かすことのできる職場につけたことに、大きなやりがいと喜びを感じています。

このようにわたしの場合、韓国留学をきっかけとして、いろいろなことに挑戦をする機会を与えられてきました。それはきっとこれまでに世界各地に留学された元奨学生の方々も同じであろうと思います。この文のタイトルを何にしようかとあれこれ思案するうちに、国際スカラシップの奨学生は、松下幸之助記念財団が未来に蒔いている種のようなものではないかと思うようになりました。ただ植物と違ってこの種を育てるのはわたしたち自身です。一つ一つの種が無事、花を咲かせ、やがて大樹となるよう、留学中、いろんな出会いをして、いろんな経験を積んで、良い肥料をご自分に与えてください。わたし自身、まだまだ成長中の身ですが、この小文が、皆さんがご自身の種を育てるときの何かの参考になれば幸いです。(2011年12月)

奈良県明日香村水落遺跡の発掘現場にて

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